排出量取引制度 日本でも2026年度から本格始動
4月13日に日本政府は、電力や鉄鋼、化学工業などの温室効果ガス(GHG)を一定量以上排出する企業を対象に、排出量取引制度「GX-ETS」への参加を義務化する方針であることを発表した。それに伴い、削減目標を認証する制度の創設も視野に入れている。
排出量取引が国内で本格化していくことが伺えるが、企業にどのような影響を与えるのか。今回のコラムでは排出量取引の今後について解説していく。
政府、GX-ETS義務化に向けて段階移行
GX-ETSはGXリーグの活動の一環で、GXリーグに参画している企業がGHG削減目標を掲げ、ステークホルダーへ結果を開示する活動である。2024年3月27日の経済産業省の発表によると、2024年度新規参画企業を合わせて、現在747社の企業がGXリーグに参画している。
2023年2月に示されたGX基本方針では、排出量取引については3つの段階的発展方針が示されている。まずGX-ETS始動に向けた準備段階である第1フェーズは、国内直接排出量と国内間接排出量における①2023年度〜2025年度および②2025年度、③2030年度の削減目標を設定し、実績の算定・報告を行う。直近年度から直接排出量と間接排出量の総量が減少し、かつ直接排出量が日本のNDC水準(2030年度の排出量が2013年度比46%減に相当する直線的な削減経路)を下回る場合、他社に売却可能な「超過削減枠」の創出を行うことができる。対して目標が未達だった場合は、超過削減枠やカーボン・クレジットの調達、または未達理由の説明が必要となる。次に、排出量取引制度への参画の義務化が示唆されている2026年は第2フェーズに位置する。5月13日に開催された、「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」では自主的な削減目標に基づく排出量取引制度の導入をGXリーグとする現行方式を、電力や鉄鋼業等の多排出産業を対象とした義務的排出削減制度へ切り替える策が有力案として挙がった。そして、最終段階の第3フェーズでは、政府は2033年度頃の発電部門における段階的な有償化の導入を目指す方針だ。
このように段階的な取り組みが予定され、GXリーグ関係者はもちろん内閣官房をはじめ政府をあげて着実に議論が行われている。
GX-ETSの今後
昨今、一定量以上のGHG排出量を持つ企業とは取引を制限する企業が増えてきた。スコープ3における割合が多いという理由から、排出量削減への取り組みに対する早急な対策が難しい企業にとって、本制度は取り組みを始める大きな一歩となる。今回、政府の発表により大企業を中心に排出量取引に参加していたが、今後は中小企業も参加する必要がある。これまでGHGを一定量排出してきた中小企業にとって、GX-ETSへの参加義務化は大きな負担になるだろう。
いよいよ日本でもETSが本格的に始動する。国内のみならず、他国と排出権取引を行う日も近づいているのではないだろうか。
GX-ETSの懸念点
GX-ETSの本格化にあたり、課題も多く残っている。
例えば、GHG排出量を間接排出分まで正確に算定しなければならず、その正確性は信頼性のあるものでないといけない。また、排出枠の設定によっては地域や業種、企業間で公平性が損なわれてしまう可能性もある。排出枠の設定は排出権の価格にも大きく影響するため、慎重に定めなくてはいけない。
そして、世界における排出枠の既存取引では排出権価格の低迷と高騰が繰り返されてきたことや、過剰供給が問題点であった。
日本政府が掲げる、2030年度のGHG排出量を2013年度比46%削減するという目標達成に向けて、本制度を取り入れながら日本全体で積極的に取り組む必要がある。
ゼロカーボン取引所では、国内における環境価値の活用や取引の活性化に貢献することで、カーボンニュートラルを促進する。
<参照>
内閣官房|『我が国のグリーントランスフォーメーションの加速に向けて』,2024年5月13日,
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/055/055_005.pdf
NIKKEI GX|『排出量取引、26年度から義務化 削減目標に認証制度』,2024年5月14日,
https://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOUC139DF0T10C24A5000000
GX League事務局|『GX-ETSの概要』,2023年2月14日,https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX-ETS%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81.pdf
GX League事務局|『GX-ETSにおける第1フェーズのルール』,
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX-ETS%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%AC%AC1%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%AE%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB.pdf
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